サマータイムの導入は簡単!なのか?可能なのか?メリットはあるのか?

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サマータイム(デイライトセービング)の導入は可能です。欧米では導入しています。しかし、問題は可能かどうか?だけではないです。

欧米ではITシステムが発達する前からサマータイムを実施しています。つまり最初から時間がコロコロ変わることを前提にITシステムが作られています。

一方、日本ではサマータイムは敗戦後の占領統治下の一時を除いて実施されていません。多くのITシステムは時間がコロコロと変わることを前提として作られていません。

サマータイム導入でITシステムで何をしなければならなくなるのか、簡単にまとめます。結論は、サマータイムの導入は難く、ITシステムにはデメリットしかなく、他もメリットは少くデメリットが目立つ、です。

ITシステムに通じていない場合、重さや長さがコロコロ変わることをイメージすると分かりやすいかも?

時間も重さも長さも、科学的に決めた基準です。この意味では同じモノです。

1kg = 1000g である基準がある期間は1kg = 800g になり、また元の基準に戻るとします。これに漏れ無く完璧に対応するには膨大な手間とコストが必要となる、と誰にでも理解ると思います。

重さ基準の変更により問題が発生しないようにするには、変換するだけ、では無理なものも多くあるでしょう。少なからずハードウェアの交換(重さ基準の変更なら計り)やソフトウェア(重量計算するソフト)の改修が必用になります。重量を教えてもらっても、新基準なのか旧基準なのか判らないので、結局正確な重量が分らない状態になることも少くないでしょう。

人には時間基準の変更は、重さ/長さの基準の変更と異り、”変えたときだけ影響する”様に見えます。しかし、時間基準が変わる事によりコンピューター間でのコミュニケーション問題は発生し続けます。

コンピューターにとっては時間基準が変わるのは重さ基準が変わることと変わりがありません。常時かつ正確に「その時間データはどの基準のデータなのか?」を把握し正しく処理する必要があります。

人間は時間変更には「アバウト」に対応できます。しかし、コンピューターは命令したことしかやりません。何も命令せずに「適当」に対応はできないです。

基準を変える、これは簡単なようで完璧に問題なく”変わった基準”で正しく動作することを保障するのは容易ではありません。

コンピューターの時間の管理方法は大別して2種類あります。

  • ローカルタイム(日本時間)で管理するモノ
  • 協定世界時(UTC)で管理するモノ

があります。時間に変動(サマータイム)がなければ、常に同じ差分(UTC + 9時間が日本のローカル時間)しかないので困らないです。しかし、変動する場合は

あるコンピューターは1000gの話をしているのに、別のコンピューターは800gの話をしている

といった感じで整合性が取れない状態になります。

時間基準が変わると「常にどの時間の話をしているのか?」正しく把握できるよう、適切にコンピューターの時計とプログラムを調整しなければ

あるコンピューターは午前10時の話をしているのに、別のコンピューターは午前8時の話をしている

という状態になります。

変換/調整すれば良いだけでしょう?と思うかも知れませんが、コンピューターの中には

  • 時間を調整ができないモノ (仕様的、現実的に調整不可能なモノ)
  • 協定世界時(UTC)にプラス/マイナスする時間を調整すれば良いモノ
  • ローカルタイム(日本時間)なので時間そのモノを変えなければならないモノ

いろいろあります。

冬時間から夏時間に変わるときには「2時間が消える」ことになります。

協定世界時で動いているコンピューターなら「連続した時間」として動作させることができますが、ローカルタイム(日本時間)で動作しているコンピューターには「2時間が消える」ことになります。

夏時間から冬時間に戻す場合は「同じ時間が2時間」あることになります。

協定世界時で動いているコンピューターなら「別の時間」として動作させることができますが、ローカルタイム(日本時間)で動作しているコンピューターには「同じ時間」が存在することになります。

日本時間に夏時間(協定世界時+11時間)と冬時間(協定世界時+9時間)の2つの基準が生まれます。

どちらの時間基準を使っているのか、はっきりさせないと、どちらの時間なのか分らなくなります。ある時期は1kg=1000g、別の時期は1kg=800g、と2つの基準を利用した場合は「重さは1kg」と言われても、どちらの基準が分らないと重さが分らなくなります。これと同じです。

あるコンピューターが10時だと思っているのに、別のコンピューターが8時だと思っていると、データのやり取り時におかしな事になります。おかしなデータが保存されたり、異常なデータによりエラーが発生しデータが保存されなくなったり、システムが停止したりします。

重さや長さがコロコロと変わると人とのコミュニケーションが取れなくなって困る、と同じようにコンピューターは時間が変わるとコミュニケーションが取れなくなって困るのです。

そもそも時間調整が困難である問題

時間調整するにしても

  • 調整できないモノ
  • 協定世界時にプラス/マイナスするモノ
  • 日本時間で実際に時計を変えてしまうモノ

これらを正確に区別し、整合性を取れるように対策した上で

  • 空白の2時間に対する対策(夏時間になるとき)
  • 重複する2時間に対する対策(夏時間が終わるとき)

が必要になります。”対策”とはコンピューターの設定変更やプログラムの作り直しです。

これらがとても大変です。そもそも日本のITシステムは時間という”基準”が変わらないことを前提に作られています。コンピューターの時計とプログラムの時間処理がどうなっているのか?完全には把握されていません。まず、センサーなども含めて全てのコンピューターを調べることから始まります。

全てのコンピューターとその上で動作するプログラムの時間管理状態を調べるだけでも、膨大なコストが必要です。

全てのコンピューターの時間管理方法を直ぐに同じにすることは不可能です。日本時間のモノ(調整済みと未調整の両方)、協定世界時のモノがバラバラに存在することになります。

今まで通りの”1つ日本時間”なら、ほぼ”単一の時間”として取り扱えました。しかし

  • このコンピューターからの時間は”日本時間で未調整のモノ”
  • このコンピューターからの時間は”日本時間で時間調整済みのモノ”
  • このコンピューターからの時間は”世界協定時のモノ”

を区別できるように”プログラムを作り変えなければなりません”。調べるだけでも大変ですが、プログラムを作り変えるのはもっと大変です。テストするのはもっと大変です。現実的には多くのシステムがぶっつけ本番状態でサマータイムに移行することになるでしょう。

重さ/長さの基準がコロコロと変わると困るように、時間がコロコロと変わるとコンピューターはとても困ります。

時間が変わってもコンピューターが困らない(誤作動しない)ようにする手間とコストは膨大になります。

身近な問題として困る例

実際に関わりがあるシステムではないので想像を含みますが、恐らく以下のような問題が発生すると考えられます。

深夜割引電力は時間によって料金が変わります。電力会社が正しく料金計算するには全ての電力計の時間(設定)を変更する必要があります。スマートメーターならリモートで一括&同時に設定変更が可能かも知れません。しかし、全ての電力計がスマートメーターではない上、もしかするとスマートメーターでも設定変更機能が実装されていないかも知れません。設定変更機能はあっても全て同時に変更することが難しいかも知れません。

スマートメーターでなければ実際に現地に行って変更することになるでしょう。一括&同時に設定変更できない電力メーターはどうするのか?決めなければなりません。

道路の信号機も困ります。交通量の少ない道路では深夜から早朝にかけて点滅信号になります。2時間も時間がずれると困ったことになります。一部はオンラインでリモート更新できると思いますが、多くの信号機は実際の信号機に行って調整が必要ではないでしょうか?交通量が少ない道路の信号にリモート管理できるシステムを導入する、といった無駄な税金は使っていないでしょう。

信号機設定変更の為に、毎年2回、信号管理会社が大忙しになると思われます。そのコストは国民の負担です。

これらはほんの一例で、時間基準の変更は全てのITシステムに影響します。対策準備の見えないコストから実際に対策を実施するコスト、少し考えるだけでも膨大です。

基準を変え、それに対応するには膨大なコストが必要

人には一時的に、時計を進めただけ、時計を戻すだけ、の問題に見えます。コンピューターではそうではありません。常に「このコンピューターはどの基準の時間で話しているのか?」を正確に把握し、必要であれば調整して正しく処理しなければなりません。

既に説明した通り、全部のコンピューターが同じ基準で話をするように調整/構成することは、少なくとも今すぐには不可能です。かなりのコストを投入して調整し続ける必要があります。

時間を含むデータは保存したり比較したりするだけでもありません。当たり前に表示します。内部的に持っている時間と表示すべき時間が異なる場合、正しく表示できるようにプログラムが作られている必要があります。

1日が26時間になった時、同じ時間が二時間あるスケジュール管理をどう正確に管理、表示するのか?仕様を決めて作る必要があります。こんな機能はサマータイムを考慮しないソフトウェアにはほぼありません。

重複する時間が存在しない協定世界時(UTC)を使うようにシステムを改修するのが良いです。日本標準時を前提に作っているプログラムの改修は技術レベルとしては容易であっても、現実的には困難を伴います。関連するシステム/プログラム全てと整合性を保った上で改修する必要があり、修正箇所が多く量的な困難が伴います。

量が多い、はコストが増えることを意味します。コスト増が許容できないので、時計の針だけ進めましょう、と対応するシステムが少なからず生まれます。運用でカバーすることになりますが、これも容易ではありません。

何をやっても「正確な時間のやり取り」は容易には行なえません。

時間変更が困るのだったらコンピューターの時間を変えなければ良い?

諦めて全てのコンピューターの時間調整なしで使う、も1つの方法ですが、これさえも上手く行きません。自動的に時間調整してしまうシステムもあるからです。

今のOSは”夏時間”用のデータベースを持っています。今のOSを使い、適切に更新していると”勝手に夏時間に変更”してくれます。

勝手に夏時間になるコンピューター、夏時間にならないコンピューターが混在するのでおかしな事になります。

法律でサマータイムが導入された場合、コンピューターの時間を変更しない、は現実的には不可能な選択です。法律でサマータイムが決ると時間管理用のデータベースが更新され、そのデータベースは様々なシステムにインストールされ、時間が調整されます。

結局、何をどうしようと時間という「基準」を変えてしまう以上、手間とお金をかけて対応するしかありません。どんなに無意味で無駄なコストであっても。

習慣化している欧米でもサマータイムに異論を持つ人は少なくない

鉱山労働者に対する調査では、時間を早めた時には怪我の発生率が6%上昇した、とする調査結果もあります。

I first examined how the shift to daylight saving time affected workers in blue-collar settings. Using a database of mining injuries from the National Institute of Occupational Safety and Health, we discovered that the spring shift to daylight saving time resulted in a 6% increase in mining injuries and a 67% increase in workdays lost because of these injuries.

https://www.marketwatch.com/story/the-costs-of-the-annual-switch-to-daylight-saving-time-are-becoming-increasing-evident-2018-03-07

心臓麻痺の発生率も5%上昇させるとしています。

Based solely on the findings from our two studies, along with a study showing that the time change predicts a 5% increased incidence of heart attacks, economists estimate that the annual spring time change costs the American economy $434 million each year. Yet that is not where the costs end.

https://www.marketwatch.com/story/the-costs-of-the-annual-switch-to-daylight-saving-time-are-becoming-increasing-evident-2018-03-07

しかも、事故を増やし、病気を増やす、夏時間への移行コストに少なくとも434万ドル必要であり、サマータイムのコストはこれだけに留まらないとしています。お金を使って事故や病気を増やすことに合理性はないでしょう。

別の調査によると米国で毎年必要となるサマータイム実施コストは、機会損失を含めると17億ドルほどとしています。毎年、1900億円程度のリソースを無駄にしていることになります。

In 2008, a report concluded that the cost of daylight saving time for the U.S. was about $1.7 billion annually. This number represented the opportunity cost for the total U.S. population, based on the idea that time is money. 

https://smartasset.com/personal-finance/the-true-cost-of-daylight-saving-time

省エネになる、とする主張もあります。しかし、実際に実施している米国では省エネ効果はほぼない場合がある、としています。

Investigators got another opportunity in 2007, when daylight time nationwide began three weeks earlier, on the second Sunday in March, and ended one week later in the fall. California Energy Commission resource economist Adrienne Kandel and her colleagues discovered that extending daylight time had little to no effect on energy use in the state. The observed drop in energy use of 0.2 percent fell within the statistical margin of error of 1.5 percent.

https://www.scientificamerican.com/article/does-daylight-saving-times-save-energy/

ただ全米レベルでは効果あったとしています。10万世帯の1年分の電力が節約できたそうです。気候によって変わるようなので、暑い日本ではマイナス効果になる可能性も捨てきれません。

In their October 2008 report to Congress, they conclude that the four-week extension of daylight time saved about 0.5 percent of the nation’s electricity per day, or 1.3 trillion watt-hours in total. That amount could power 100,000 households for a year. The study did not just look at residential electricity use but commercial use as well, Dowd says.

https://www.scientificamerican.com/article/does-daylight-saving-times-save-energy/

明らかなメリットとして明い時間に帰宅するため交通事故率は減ったとしています。(参考資料が見つかりませんでしたが、冬時間に戻したときに交通事故率が増えます)

On the other hand, the clock shift could help prevent traffic accidents by enabling more people to drive home in sunlight. By analyzing 28 years of U.S. automobile crash data, RAND Corporation economists and their colleagues suggest that a 1986 change in federal daylight saving time law—which moved the start of daylight time from the last Sunday in April to the first—produced an 8 to 11 percent drop in crashes involving pedestrians and a 6 to 10 percent dip in crashes for vehicular occupants. They reported the findings in a 2007 B.E. Journal of Economic Analysis & Policy study.

https://www.scientificamerican.com/article/does-daylight-saving-times-save-energy/

メリット/デメリットがありますが、電気が普及していなかった昔ならいざ知らず、現代でサマータイムが生活において何らかのメリットを感じさせるか?というと感じさせません。米国には住んでいたので分かります。忘れていて大学の講義をすっぽかした、というデメリットだけ覚えています。

実際に何十年もサマータイムを経験している人達でも、なんのメリットも感じず、大したことではないがデメリットだけ感じていている人が多数いると思われます。

そんな状況のなかEUではサマータイム廃止が議論されることになりました。

【ブリュッセル=森本学】欧州連合(EU)でサマータイムの廃止の是非をめぐる検討が始まった。執行機関である欧州委員会はEU全域を対象にした世論調査をふまえ、具体的な対応を判断する。日本では2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて導入論議も浮上してきたが、1970年代から夏時間が定着している欧州では、健康面への悪影響から廃止を求める声が広がる。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34125370U8A810C1MM0000/

サマータイムに社会的なメリットがあっても、それは社会的なデメリットにより打ち消されるようなメリットしかないように見えます。メリットとされているモノは「年中サマータイムにすれが良いだけの話」(単純に時計の針を1時間、2時間進めたママにする方が良い)にも見えます。

しかし、基準を変えるのは簡単そうで、簡単ではありません。基準自体を変えるのは簡単です。重さも時間も基準は簡単に変えれても、それをキチンと正確に処理/対応するのは簡単ではありません。

そんなサマータイムを日本は本気で導入を検討し始めました。何度も何度も「ほぼ無意味だ」と結論付けられてきたにも関わらず。無理&無駄なサマータイムが導入されないことを願うばかりです。

参考:

https://www.slideshare.net/tetsutalow/ss-109290879

パロディ:

時間とは”基準”の1つです。重さや温度も基準です。無意味に変えるのはただの無駄です。

日本政府が「夏重さ」の導入を決定
日本政府「夏時間」に続き「夏温度」を導入

投稿者: yohgaki